日本滞在日記(2001年6月11〜17日)


6月11日(月)

午後1時35分に妻と一緒に家を出て、交番前のバス停へ行った。バス停には、ハングルと漢字で「仁川国際空港」と書いてあり、その下に英語で「Incheon International Airport」と書いてあり、いちばん下に、「仁川 コクサイ クウコウ」と書いてあった。漢字とカタカナの使い方が逆だと思った。そこからインチョン空港行きのバスに乗って、初めてインチョン空港へ行った。

空港に着いてから、ANAのカウンターでチェックインした。ポケモンのうちわと手提げをくれた。

コーヒーショップでコーヒーを飲んだ(3,500ウォン)。ご飯茶碗のような大きなコーヒーカップになみなみと注がれて出てきたが、ヘーゼルナッツの味がして、少し煮詰まっており、大しておいしいとは思わなかった。クリームと砂糖を入れて飲んだ。

ふと気になって、ヘブライ人への手紙の有名な個所「信仰とは、望んでいる事柄を確信し、見えない事実を確認することです」(11章1節)を読んだ。“Estin de pistiV elpizomenwn upostasiV, pragmatwn elegcoV ou blepomenwn”……いや格好いい。何と躍動感あふれる語順! 今から「ヘブライ人への手紙」を読むことにした。

それから出国手続きを取って出発ゲートの方へ行ったが、台車がキュルキュル鳴ってうるさい上に重い。それで、掃除をしているおばさんに、機械油を注したいんですが、どこに行ったらありますかと尋ねると、ずっと反対側の方に機械室があるという。それで、油を注すのはあきらめた。

飛行機は、ポケモンの飛行機だった。


ANAの飛行機

乗る前に飛行機を撮り、乗ってから、翼の先端のピカチュウを撮った。そして、飛行中に、雲の上の写真を2〜3枚撮った。


雲の上から

機内食は、まあまあおいしかった。それよりも、これを食べ残すと、成田から家に戻るまでに空腹にたえられないから、甘ったるくて好きではないケーキも、無理矢理食べた。


ANAの機内食

出発が予定時間よりも大幅に遅れて6時頃になり、成田空港に着いたのは8時頃だった。成田に着いてから、かばんを載せる台車に機械油を注してくれるところを探した。日本航空の荷物の預かり所でスプレーの油をかしてもらった。油を注したら、音もせず滑らかに動くようになった。

それからキンポ空港でいえばスナックコーナーのような所でミックスサンド(500円)とブレンドコーヒー(200円)を取って食べた(735円)。コーヒーは、インチョン空港と全日空の機内食とここでは、ここがいちばんおいしかった。

それからスカイライナーで日暮里まで行き(1920円)、そこから池袋まで山の手線で行って(160円)、東武東上線に乗り替えて、鶴ヶ島まで行った(500円)。そして家に電話をかけ、父に迎えに来てもらって、家に着いた。母はもう眠っていた。うどんだけ食べて寝た。


6月12日(火)

目が覚めると午前10時。父と母はもう出勤していて、家には私一人しかいなかった。母はきのう私が家に着いたときにはすでに寝室で寝ていて顔も見られなかった。そして、今朝私が遅く目が覚めたら、もういなかったので、全然顔も見られない状態が続くわけだ。

昼頃1階におりて食事を済ませ、家を出た。出てすぐに、隣の滝島さんのおじさんにあった。数年ぶりに会って、髪も真っ白になっていたが、とても若々しく爽やかに見えた。すごく感じがよかった。

笠幡駅まで歩いていった。雨が降りそうな天気だったので、傘を持って行った。


私の家から笠幡駅へ行く途中の田園風景

駅で缶コーヒーを飲んだ(120円)。とてもおいしくて、心に染み渡るようだった。宣伝になるといけないから、どこのコーヒーかは言わない、というわけではなくて、どこのコーヒーだったか思い出せない。香りが高く、甘味が押さえてあって、ほろ苦かった。


笠幡駅のプラットフォーム

川越線で大宮駅に行き(400円)、ソニックシティービルの国際免許センターで、免許を更新した。


ソニックシティービル

始めは日本の免許証だけを更新しようとしたが、国際免許といっしょでなければ更新できないと言われたので、いっしょに国際免許も取った。免許証の更新手数料が2,950円、国際免許手数料が2,650円、写真の撮影代が500円で、合計6,100円。ひやあと悲鳴を上げたくなるほど高い。

免許を更新するとき、交通安全の教育ビデオを見た。相川欽也が進行していて、非常に科学的で無駄のない編集をしているビデオだと思った。面白いわけではないが、退屈でたまらないというものでもなかった。メモを取りながら見た。しかし、このビデオ、前回ここで免許を更新するときも、同じものを見た。

手続きが全部済んだあと、埼京線で大宮駅から川越駅に行った(320円)。

川越の街に着くと、私が高校・大学生の時に足繁く通った駅前の黒田書店が、服屋になっていた。それを見て、とても悲しかった。

シティ文庫川越という名前の古本屋へ行った。去年の3月にここに来たとき、『ギリシャ語辞典』があったが、当時はまだギリシャ語がほとんど読解できない状態だったので、こんなのを買っても読む機会もないだろうと思っていたのだが、そのあと買わなかったことをずっと後悔していたものだ。あるかどうか分からなかったが、いってみると、まだ売れずに残っていた。ビニールのカバーが掛けられているので、新品同様の状態で保存されている。とてもうれしかった。


『ギリシャ語辞典』
一年と3か月間私を待ってくれていた(?)

他に、石川啄木の『ローマ字日記』はひょっとしてあるだろうかと見てみると、あった! これは、デジタル化してローマ字のホームページに載せようと、以前から考えていたのだ。


『ROMAZI NIKKI』の表紙

それから、シュリーマンの『古代への情熱』もあった。これで、探していたものは、全部揃ってしまった。

いくつかの文庫本もいっしょに買った。今日ここで買った本は、次の通り。

  1. 『ギリシャ語辞典』古川晴風編著、大学書林(27,000円)
  2. 『ROMAZI NIKKI』石川啄木著、桑原武夫編訳、岩波文庫(340円)
  3. 『古代への情熱』シュリーマン著、村田数之亮訳、岩波文庫(210円)
  4. 『茶の本』岡倉覚三著、村岡博訳、岩波文庫(70円)
  5. 『藤村詩抄』島崎藤村自選、岩波文庫(120円)
  6. 『舞姫・うたかたの記 他三編』森鴎外作、岩波文庫(100円)
  7. 『国姓爺合戦・鎚の権三重帷子』近松門左衛門作、和田万吉校訂、岩波文庫(110円)
  8. 『マザー・グース4』谷川俊太郎訳、和田誠絵、平野敬一監修、講談社文庫(170円)
これに消費税が1,406円付いて、29,526円になった。いや、我ながらたいへんな買い物になった。この後は、ソウルに戻るまで家に閉じこもって暮らそうか。

普段は本を買うと、喫茶店などに入ってコーヒーを啜りながら買ったばかりの本をパラパラとめくるのだが、お金がもったいないという気持ちが先走るせいか、何も食べたくも飲みたくもないので、まっすぐ帰ることにした。川越駅から笠幡駅まで川越線で帰った(190円)。

家に近付いたとき、高梨さんの家の前で、高梨さんのおばあさんが見知らぬ女の人と話をしていた。元気そうで何よりですというと、「それが元気じゃないのよ」という。(後で母から聞いたが、脳溢血で倒れたのだが、その後自分で努力して回復したのだそうだ。)

家に着くと、母が帰ってきていた。いっしょに話ながら、ドゥランノからまだ『リビングライフ』が送られ続けているということを知った。母は、私がその本代を払っているのかと思っていたようだが、私が、それは出版社から直接送ってくれているもので、自分は何も払っていないというと、驚いた顔をしていた。

母は、妻の母をほめていた。生き方にバイタリティーがあるということと、勉強家で頭もいいということを、しきりに言っていた。たしかに、それは否定できない事実だ。私も人のいい面を認めて、そこに自分の意識を集中すべきだと反省した。

それから、増田さんに電話をかけた。増田さんの最近のトピックスとしては、NHKテレビのハングル講座で放映したものを、紀伊国屋でビデオ教材として売ることになったのだそうだ。NHKで録画した教材を他の出版社で再使用するのは、今回が初めてだと言う。分かりやすい構成にしたのが理由らしいとのことだった。

それからしばらくして、父が川越駅から電話をかけてきて、今から帰るというので、自転車で出迎えに行ってみた。改札の前で待っていると、電車がホームに入ってきた。改札口から電車の中をのぞき込むと、父は、改札にいちばん近いところに座っていた。しかし、ぐっすり眠っていて、目を覚ます気配もない。人はどんどん出てくるが、父はそのまま座ったまま眠っている。叫ぼうにも、離れているし、電車のガラス窓に遮られていて、眠っている人を起こすほどには聞こえないだろう。それに、そんなことをしたら、私の前にいる人たちがびっくりするだろうから、叫んで起こすわけにもいかない。やきもきしながら見ていたが、結局、ドアが閉まり、電車が動き始めた。父は眠ったまま行ってしまった。切符を回収していた駅長が、私をちらりと睨むと、そのまま駅長室に入っていった。それで、また家に戻った。

ずいぶんしてから、父が帰ってきた。酔って寝てしまい、終点の高麗川まで行ってしまったとのことだ。

夜中に、ライコスクラブの 『日本語大好きクラブ』の管理人の ywindy8 さんから電話があった。私がきのう家を出る前に、メモで電話番号と名前を送っておいたのだが、電話してくれるとは思ってもみなかった。彼と、いろいろな話をした。ひょっとしたら、私が韓国へ戻る前に、一度会うかもしれない。

そのあと、『ギリシャ語辞典』の白い紙のカバーを外してみたら、なんと、背表紙が革装だった。かっこいいと思った。韓国ウォンにすると30万ウォン近い買い物だが、これが私の人生に大きな知識の泉を汲み取る道具として用いられるなら、決して高くないと思った。


カバーを外した『ギリシャ語辞典』


6月13日(水)

昼頃目が覚めた。今日も天気が悪い。

起きてから、『古代への情熱』の、シュリーマンが外国語を習得する過程を書いた部分を、外国語学習資料に入力した。韓国に戻ったら、アップロードしよう。


『古代への情熱』の表紙

今「ヘブライ人への手紙」を読んでいるが、これはとても難しい。新約聖書の中でいちばん難しいとは聞いていたが、単語も文型も難しい。『ロゴス聖書』と『ギリシャ語辞典』で単語の訳を見ても、ほとんど理解できない。福音書と「ヨハネの手紙」で自信をつけたが、「ヘブライ人への手紙」では、ノックダウンされそうだ。日本語訳で読んでいるときには、何とも荘厳で美しくすらある「ヘブライ人への手紙」だが、ギリシャ語では、こんなに難しいのだ。もっと腰を据えてじっくり読まなければ、とうてい理解できそうにない。

しかしシュリーマンは書いている。

 私はギリシア語を学ぶことができるのをつねづねもっとも強く渇望していたが、クリミア戦争まではこの勉強にたずさわらないのがよいと思えた。というのは、このすばらしい言語の強い魅力があまりにも私を引きつけて、商業上の関心から私を遠ざけることを、恐れねばならなかったからである。しかし戦時中は商売が多すぎて、私は一度も新聞を読むことができないほどであり、まして書物どころではなかった。しかし一八五六年一月に最初の平和の報知がペテルスブルグにくると、私はもはやわが渇望をおさえることができず、ただちに非常な熱心をもって新しい勉強に手をつけた。私の最初の先生はニコラオス・パッパダケス氏、ついではテオクレトス・ヴィムポス氏で、ともにアテネ出身であり、後者は今日そこの大主教である。このたびもまた私は忠実に自分の昔の方法を守って、短期間に単語を、私にはロシア語の場合よりもはるかにむずかしそうにみえたものを、わがものにするために、『ポールとヴィルジニー』の現代ギリシア語訳を入手してそれを通読し、その場合私は注意して一語一語をフランス語原本のそれに相当する語と比較した。一回目の通読後には、この本に出てくる語の少なくともなかばをものにし、二度この方法をくり返した後には、ほとんどすべてを学習することができた。この場合にも私は辞書をひくために、ただの一分間も失ったことはなかった。こうして私は六か月という短時日のあいだに、現代ギリシア語の困難さを克服した。ついで私は古代ギリシア語の勉強をはじめたが、それについては三か月で二、三の古典作家、ことに私が最大の感激をもってくり返し読んだホメロスを解することができた。
(シュリーマン『古代への情熱』岩波書店、1954。p.34〜35)

私とはずいぶん違う。やはりシュリーマンはもともと語学の天才なのだから、私とは違うのは、当然のことだ。

4時頃、大野さんの常ちゃんが、取れたての筍を持って来た。常ちゃんは、ずいぶん老けた感じがしたが、年齢を聞くと、今年50だという。びっくりした。自分の記憶の中では、まだ青年だったからだ。

5時頃、増田さんから家に着いたという電話があり、遊びに行った。外は小雨が降っていた。

笠幡駅から川越線で川越駅まで行き(190円)、そこから東武東上線に乗り替えて、隣の川越市駅で降りた(140円)。増田さんの家は、私が通っていたカトリックの白鳩幼稚園の近くにある。最近、幼稚園はやめて、教会だけになったと聞いているが、本当だろうか。たしかに、私が通っていた頃の面影がなくなってからずいぶん久しいのだが。

増田さんからは、例のように、いろいろな話を聞いた。増田さんが東京外国語専門学校で使っているプリント教材を一部くれた。かなり分厚い教材で、一つ一つがよく考えられている。パンチで穴が空けてあるから、あとでファイルを買って綴じておこう。

増田さんは、いろいろな仕事のアイデアを持っている。私は話を聞きながら、自分にはできない仕事なので、ただただ驚くばかりだった。去年は1年間テレビに出演したので、しばらく休んだあと、ラジオの方をやってみたいと言っていた。たいへんなバイタリティーだ。

KBSラジオの日本語放送に出演したテープを聞かせてもらった。アナウンサーと電話で対話していたが、外国語の勉強方法について有益な話をたくさんしている。これがそのまま増田さんの家だけに眠っているのはもったいないと思った。早く増田さんの公式サイトを作って、こういう放送したものも聞けるようにすれば、韓国語を勉強しようとする人たちの役に立つ。ホームページ作りを強く勧めたが、機械音痴だからといって、あまり関心を示してくれない。

教材の話もした。増田さんの考えは、詰め込みすぎて消化不良になっては、かえって逆効果だから、韓国語ができるようになるために必要な表現に絞って教えるべきだというものだ。私も同じ考えなので、話がいろいろ発展した。

増田さんのお母さんが、手料理の牛丼を作ってくださった。私は牛丼というと、吉野屋のしか食べたことがなかったので、こんなに肉のおいしい牛丼があるということを初めて知って、驚いた。

イラストレーターの内田征二さんが亡くなったときの話を聞いた。亡くなったのは、去年の8月15日だったのだそうだが、増田さんが連絡を受けたのは、それから1か月ほどたった頃だそうだ。死因は肝硬変だそうだが、内田さんの母親が、手帳から増田さんの連絡先を見つけて、電話してきたということだ。

なぜ1か月後に連絡してきたかというと、内田さんの家が火事で焼けて、記録してあったものがほとんど全部灰になってしまったのだが、後に内田さんの身辺の道具などを整理しているときに手帳が出てきて、そこに増田さんの連絡先が書いてあったのだという。知らせを聞いて、行って焼香してきたそうだ。

増田さんの知り合いのTCVBというHPで、増田さんのクラスの学生たちが書いている韓国人留学生の案内する東京ガイドを紹介してもらった。結構反響があるらしく、見ておいたら役に立つよと言われた。

いろいろな話をしていたら、あっと言う間に夜11時になった。急いで増田さんの家を出た。雨は止んでいた。

増田さんが川越市駅まで送ってくれた。歩きながら行く途中、私が幼稚園に通っていた頃郵便局だった建物が、建物はそのままでイタリアン・レストランになってる。本当は今日はここでいっしょに食事をしようと思っていたという。ということは、この店はおいしいのかもしれない。今度一人で来てみようか。

川越市駅で11時13分発の池袋行きに乗り(140円)、川越駅で、11時23分発の高麗川行きに乗った(190円)。

笠幡駅に着いてから、駅前のローソンに寄ってみた。見ると、面白いことに、チヂミ味ポテトチップというのがある。


チヂミ味ポテトチップ

買って(123円)、家に帰ってから食べてみた。袋を開けると、海老せんべいのような匂いがする。形も長方形だ。なんだ、大したことないなと思って食べてみたら、これがなかなかいける。ソースの味と、ほのかにネギの香りがする。ポテトチップの歯ごたえだが、それより若干柔らかめで、サクッとしている。


チヂミ味ポテトチップを手に取ってみたところ


6月14日(木)

目が覚めたら午後1時だった。外は雨が降っていて、空気は肌寒い。

日記を見ると、今日が木曜日になっている。気がつかなかった。私は何を錯覚していたのか、今日は水曜日のつもりでいた。

持ってきたお金の残りを数えてみた。24,990円。ウォンは10,760ウォン。

それで、夕方家を出て、またシティ文庫川越に行き、一昨日買い残した本を買い、その他役に立ちそうな本を数冊買った。

今日買った本は、次の通り。

  1. 『教養としての言語学』鈴木孝夫著、岩波新書(400円)
  2. 『記号論への招待』池上嘉彦著、岩波新書(280円)
  3. 『江戸語・東京語・標準語』水原明人著、講談社現代新書(380円)
  4. 『言葉と無意識』丸山圭三郎著、講談社現代新書(300円)
  5. 『読書の方法(<未知>を読む)』外山滋比古著、講談社現代新書(300円)
  6. 『正しく考えるために』岩崎武雄著、講談社現代新書(260円)
  7. 『哲学のすすめ』岩崎武雄、講談社現代新書(250円)
  8. 『辞書を語る』岩波新書編集部編、岩波新書(300円)
  9. 『新学問論』西部邁著、講談社現代新書(280円)
  10. 『私の外国語』梅棹忠夫・永井道雄編、中公新書(150円)
  11. 『歎異抄』金子大栄校注、岩波文庫(160円)
  12. 『日本的霊性』鈴木大拙著、岩波文庫(300円)
  13. 『日本語横丁』板坂元著、講談社学術文庫(500円)
  14. 『敬語』大石初太郎著、ちくま文庫(250円)
  15. 『職業としての学問』マックス・ウェーバー著、尾高邦雄訳、岩波文庫(70円)
  16. 『ギルガメシュ叙事詩』矢島文夫訳、ちくま学芸文庫(580円)

これに、一昨日もらった2割引の券で952円割り引いて、税金190円をかけ、3,998円だった。

シティ文庫川越を出てから、新富町通りの万鱗亭という回転寿司の店に入って、握り鮨や“軍艦”などを食べた。私は流れている皿をとって食べたが、横に座った若い男性は、一つ一つ注文しながら食べていた。うん、その方が寿司を食べてるという実感が持てる、と思った。しかし、私はどれが何なのかよく分からないので、私の前に流れてきたのだけを食べていた。結局、6皿食べた(790円)。

それから、ドトールに行って、ブレンドコーヒー(180円)を飲みながら、先ほど買った本の中から、『ギルガメシュ叙事詩』を読んだ。


『ギルガメシュ叙事詩』の表紙

この叙事詩は、世界最古の文学作品で、単独の石版ではほとんど鑑賞できないほど欠損が激しいのだが、現在様々な地域から様々な言語で書かれた同じ物語の断片が発掘されていて、部分部分をつなぎ合わせて、何とか鑑賞できるような形態にまでなっている。本文に入る前に、訳者が書いた粗筋を読んだが、非常に感動的だった。

しかし、本文も、欠損部分が想像力を掻き立てる。欠損の中からおぼろげに浮かび上がる壮大な物語は、忘れかけてゆく夢を回想するような美しさがある。

この叙事詩の存在については、本などで読んで知ってはいたけれど、何ともいえず深みのある美しさが、このストーリーにはある。とりわけギルガメシュの猛々しさが物語の中で光っている。

そして彼は〔まなこを〕上げもせず
彼の心臓にさわったが、それは動いていなかった
そこで彼は友に花嫁であるかのように薄布をかけた
ライオンのように声を張り上げた
子供を奪われた雌ライオンであるかのように
彼は〔友の〕まえを行ったり来たりした
〔毛髪を〕引き抜き、まきちらしながら
〔体に〕つけたよき品々を引き裂き投げつけながら
夜明けの光とともにギルガメシュは〔
  (以下欠)(p.100)

この、死んだ友エンキドゥを悼み悲しむくだりは、何とも言えず、美しい。

これが楔形文字で書かれたものを訳したというのだから、何とも不思議というか、神秘的だ。一度は忘れ去られた言語に再び、意味という生命を吹き込み、こんなにもはっきりと物語を読み解くことができるということ自体、私には驚異だ。

川越から笠幡に向かう(190円)電車の中で、この叙事詩の本文を読み終わった。

夜中に父が500円玉を10枚もくれた。ありがたき幸せ。

『職業としての学問』を読みながら寝床に入った。この本は、大学に就職するときの事情や心構え、研究に関する態度の問題など、とても役に立つ内容で満ちている。以前読んだ『大学教授になる方法』と一脈通じるところがある。こんなに面白い本だとは知らなかった。大学に残って勉強を続けたい人には必読の書かもしれない。

ずっと降り続ける雨音のせいか、なかなか寝付けなかった。


6月15日(金)

昼頃目が覚めた。また今日も雨だ。昼なのに外は薄暗い。しばらくこういう気候に慣れていなかったので、気が滅入ってしまう。

起きてから、まず多楽園に「日本語作文教室」の原稿を送った。それから、ヘブライ語の教材を読んだ。

それから食事をした。豚キムチみそ汁というのを食べた。キムチのフレークにお湯を注いで溶かす。韓国のインスタント食品のような味がした。


豚キムチみそ汁

食後しばらくしてから、『職業としての学問』を読み終わった。とてもいい本だった。

自分が探し求めさえすれば、世の中は素晴らしいもので満ちている。何もしないでいると、くだらないものだらけの世の中だが、よいものを求める意思があれば、生きるのがつらいこの人生も、その中から楽しみを見出すことができる。よいものを求め続けることだ。そうすれば、『職業としての学問』のような素晴らしい本を70円(税付きの2割引で58.8円)で買うこともできるのだ。

そのあと、『読書の方法 (<未知>を読む)』を読み始めた。知っていることを読むのと、知らないことを読むのとに分けて考える発想は、なかなか有用だ。スクリプトとかスキーマなどと呼ばれる“予備知識”が受け手にないと、言葉を理解するのは難しいということは、よく指摘されている。ところが、この本は、それらを読み手が持っていない本を読むことを勧めているのだ。

午後4時過ぎに家を出た。雨が降り続いている。川越線で笠幡駅から電車に乗って川越駅に行った(190円)。

川越駅を出てから向かいから歩いてくる人たちの表情を見て、薄気味悪くなった。半分をこえる人たちが、感情が全然ない人のように無表情で、そのうち何割かは、ゾンビのように上目遣いで正面を見ている。生きた人らしい表情をしている人たちは、全体の半分以下だ。むしろ、傲然とした表情の人の方が、人間として生きている証に見えるほどだ。

どうしてこんなに無表情な人が多いのだろうか。昔からそうだったのか。私が韓国にいる間に、ソウルの人たちの表情に慣れてしまったから、日本人が無表情に見えるのか。韓国では、ツンとしていたり、眉間に皺を寄せたりしている表情をよく見るが、そういう人たちはほとんど見かけない。それとも、本当にここ10年くらいの間に、日本人の表情が変わってきたのか。

駅を出てからアトレの地下の食料品売り場へ行き、おみやげにするものを買った。顆粒状の緑茶4袋(1,992円)と中華三昧涼麺5袋(625円)、ミルクキャラメル2個(190円)、カップ水羊羹(258円)を買い(税込み合計3,218円)、それから、同じフロアのくらづくり本舗で、妻へのおみやげに、焼き菓子10点(1,134円)を買った。

そのあと、クスリのサンドラッグで、チョコラBBゴールデン錠(2,436円)と、掃除機のフィルター2袋(835円)を買った。チョコラBBゴールデン錠が案外高いので、驚いた。初め2千いくらと聞いたとき、耳を疑ったが、確かにその値段だった。

それからシティ文庫川越に行って、本を1冊買った。

  1. 『初等ラテン語文典』田中秀央著、研究社(900円)
消費税まで含めて、945円だった。読むかどうか分からないが、とりあえず買っておくことにした。

それから、来来軒というラーメン屋で、ニンニク餃子(150円)とキムチチャーハン(550円)を食べた(合計700円)。

それからドトールでコーヒーでも飲もうと思ったが、お金がもったいなかったのでまっすぐ家に帰った(190円)。

今日の合計出費は9,648円。財布の中の残高は、14,490円。

夜中に『読書の方法 (<未知>を読む)』を読み終わった。知らない内容を読み、初めから内容のよく分からないものを苦労して読むことによって、真に読む力が付くという内容は、逆説的であるけれども、本当だと思った。

ふと、変なことを思いついた。それは、今日買った『初等ラテン語文典』の140ページしかない本文を、1日20ページずつ読み進めるというものだ。1週間で1読できる計算だが、そうすれば、ラテン語の鳥瞰が得られるような気がした。

でも、ギリシャ語でこんなに苦労しているのに、ラテン語の文法書を読み終えたからといって、ラテン語の文章を辞書を引き引き読むことが楽しみになるとは思えない。形態論的には似た部分があるにはあるが、ギリシャ語と平行して考えていく訳にはいかないように見える。単語もずいぶん違う。

だから、テキストが読めることを目的とするよりも、この文典を一種の研究書として、ラテン語の文法を調査する気持ちで読んだ方がいい。そして、何度か読み返せば、内容はおぼろげながら頭に入ると思う。


6月16日(土)

10時半に目が覚め、しばらくしてから増田さんに会いに、本川越駅に向かった。今日は雨が上がり、空は一面曇っているが、太陽の光をうっすらと感じた。

笠幡駅から電車に乗って川越駅まで行った(190円)。いちばん前に乗ると、広い窓から運転席と前方の線路が見渡せる。川越駅に着くまでずっと線路を眺めていた。


電車の窓から見た線路

川越に着いてから、新富町通りを通って、本川越駅の改札口まで行った。

今日は天気がいいせいか、上目遣いで死んだような表情をした人がきのうほどは多くないような気がする。気のせいなのか、天気が良くなって、人々の気分も生き生きとしてきたのか。


川越のメイン商店街、新富町通り。
電線を地中に埋めているので、電柱がない。

途中、カメラ屋があったので、デジタルカメラに入れるコンパクトフラッシュが安かったら、メモリが大きいのを買おうかと思ったが、4千5百円以上するのでやめた。

本川越駅で増田さんに会ってから、いっしょにそこを出て、スポーツ用品店弘武堂脇の小さい道に入り、シティ文庫川越の斜向かいにある、パポーネ(川越市新富町2-25-2 タイメイビル、0492-22-9778)というイタリアンレストランに入り、アサリのスパゲッティとピッツァをご馳走になりながら、多楽園のキム・シムヒさんや時事日本語社のキム・ジョウン先生に言付ける手紙を受け取った。 増田さんは凡人社で約束があるので、1時半頃そこを出て、本川越駅までいっしょに行った。そして、改札口で増田さんを見送った。

そのあと、新富町通りの丸広百貨店へ行き、別館4階の紀伊国屋書店で本を見た。ほしくなるような本がたくさんあったが、我慢して買わなかった。『読書のすすめ 第6集』(岩波文庫編集部編、岩波書店)というのがあって、それはただで持っていってもいいと書いてあったので、持ってきた。8人の文化人が、岩波文庫にまつわる思い出について書いたエッセイが載っている。

アトレ6階の池田書店へ行った。そこで本を眺めていると、『1分間でやる気が出る146のヒント』(ドン・エシッグ著、弓場隆訳、ディスカヴァー21)という本が目に留まった。手にとって読んでみると、とても明快にできていて分かりやすいし、頭にも入りやすく編集されている。自分に何かとても役に立ちそうな気がしたので、お金もないのに買ってしまった(1,365円)。

それから、コーヒーでも飲もうと思ったが、まっすぐ家に帰ることにし、川越駅から笠幡駅まで電車で帰った(190円)。

電車の中で、私の左の方に座っていた髪がぼさぼさでだらしない格好をした若い男が、もっと若い学生だか誰だかに、土下座して謝れと言いながら説教していた。態度が悪いというのだろうか。

ふと向かいの人たちを見ると、中年の主婦も、サラリーマン風の男性も、美しい高校生の女の子も、彼に対し、厳しい視線を送っていた。3人とも表情が険しくなっていた。

家に戻ってから、ここ数日の雨ですっかり白茶けてしまった靴を磨いた。磨いてみると、結構いい靴に戻った(ような気がする)。

7時頃、妹が旦那の幸太郎さんといっしょに来た。そして、いっしょに近所のホルモン亭に焼き肉を食べに行った。店の中はお客が多く、肉を焼く煙が立ちこめていた。まず、カルビとロースを頼んだ。いい肉を使っていて、おいしかった。キムチとサンチュは別売りだったが、日本ではそれが当然らしく、誰も不満を言わなかった。


ホルモン亭の焼き肉を焼いているところ。

食事が終わってから、家に戻って、コーヒーを飲みながらいっしょに話をした。幸太郎さんは半導体の会社に勤めていて、機械にはとても詳しい。コンピュータの話やDVD再生機の裏話などを聞いた。

妻から電話があった。リコンファームをしたかと言う。すっかり忘れてた。明日の朝急いでしなければ。

ライコスクラブywindy8 さんに電話しようと思ったら、電話番号を書いたメモ用紙がどこかへ行ってしまって、見つからなかった。仕方ない。ソウルに帰ったらクラブに書き込もう。

夜中に、明日帰るために荷造りをした。かなり大変だった。


6月17日(日)

朝10時頃起きてから、父と母と一緒に食事をした。そのあと、全日空に電話をかけて、リコンファームをした。「搭乗の再確認」というのだそうだ。

それから少しのんびりして、そのあと、1時少し前に父が鶴ヶ島駅まで送ってくれた。その時、母が交通費にといって、5,000円くれた。

鶴ヶ島から日暮里までの乗り越し切符を買った(660円)。荷物は多くないのだが、本と古いノートパソコンが重量を増やしていて、重い。『私の外国語』を読みながら、成田空港へ向かった。

日暮里から京成線のスカイライナーに乗った(1,920円)。禁煙車だが、密閉した車内に、隣の車両からタバコの煙が入ってきて、気分が悪くなった。窓を開けたいが、窓は開けられないようになっている。空港第2ターミナル駅で降りるころには、吐きそうな気分だった。

それからすぐにチェックインした。機内に預ける荷物は20キロまでだが、私の荷物は23キロだった。しかし、一応超過料金は免除してくれた。以前は大幅にオーバーして、7000円取られたことがある。

薬局で、袋の中をくずすと冷えるヒヤロンスーパーというものを二つ買った(630円)。それから、四季彩彩という寿司屋で、ねぎとろいくら丼を食べ(980円)、おみやげに握り鮨を2つ買った(2,000円)。

そして、子供にポケモンの本を買い、『「学ぶ」から「使う」外国語へ』(関口一郎著、集英社新書、680円+税)を、たまたま見つけたので買った。私は外国語学習関係の本を見つけては買っているのだ。

そして、5時少し前に、出国の手続きをした。搭乗口は、サテライトではなく、本体(?)にあって、出国手続きをしたところから100メートルも離れていないところにあった。広い窓から外を見ると、天気がいい。私がいるときにこんな天気だったらよかったのに。


帰りの飛行機はポケモンではなかった。

飛行機はほぼ定刻に出発した。しかし、第2旅客ターミナルの発着場から滑走路の出発点までいちばん距離が遠いため(サテライトからよりもさらに遠い)、飛行機が滑走路に着くまで30分間もかかった。


離陸する瞬間。

帰りの機内食は、行きよりも少しよかった。しかし、パックに入った水がおいしくなかった。行きの飛行機で飲んだ“KAiDA”はおいしい水だったのだと、その時初めて知った。


機内食。

ヒヤロンスーパーは90分しかもたないというので、2時間ほどたったころ、寿司の保冷を続けるために、もう一つのを出して揉んだら、全然冷たくならない。なんと、使い終わったものだったのだ。うう、なんとゴミを315円も払って買ってしまった。店の主人は、品物が使えるものかどうかを確認して売ってくれなきゃ困る。

韓国は雨だった。インチョン空港に着陸したとき、雨で滑走路が滑りやすくなっているのか、機体が左右につるつると滑り動くのを感じた。飛行機から出ると、かなり空気が湿っていた。妻と子供がはるばる迎えに来てくれた。いっしょにバスの中で寿司を食べながら、家に向かった。