初日の授業

2001年2月10日(土)


 言語教育院は、学院の会話の授業と同じく少人数制である。1クラス、7人から15人ほどで構成されている。

 まず、教室に入ったとき、クラスの確認をする。ときどき、顔を真っ赤にさせて教室から出ていく学生がいる。
 中級のクラスでは半数以上の学生が持ち上がりか、復活か、または居残りで、また、新規の学生も、私がインタビューした学生がいるので、実際には初めて会う学生は、それほど多くない。


1.教師の自己紹介

 最初に私の名前を紹介する。
 名前を言う前に、ノートと筆記用具を準備させ、私が名前を言ったら、学生たちにひらがなで書かせる。「おざき・たつじ」という名前は、韓国語にない音があるので、どのくらい日本語の音を正しく把握できているか試すのに好都合である。
 私の名前を、3〜4回言う。質問は受けつけない。質問があったら、もう一度私の名前を言うだけにする。
 「『た』は濁音ですか、清音ですか」という質問があっても、「たつじです」と答えるだけにする。
 ある学生は、「“ta”ですか、“tha”ですか」と聞くこともある。「『た』です」と答える。語頭の「た」は、どちらにも聞こえるので、そういう学生は、困るだけである。しかし、韓国語に合わせて便宜的に区別することはしない。それは、実際の日本語に触れたとき、聞き取りの障害になるからである。
 全員が書いたところで、黒板に名前を書く。1字間違える人が多い。特に、「ざ」を「さ」と間違える人が多い。
 発音についてどれだけ刺激を与えられるか分からないが、少なくとも、私の名前を覚えてもらうだけの効果はあるようだ。
 なお、自分の名前をひらがなだけ書いて、漢字の名前を書き忘れてしまうことがよくある。


2.カードに名前と電子メールアドレスを書かせる

 カードのどこに名前と電子メールアドレスを記載するか、黒板に絵を描いて説明する。そのとき学生は、「Eメール」や「アドレス」などの語を覚える。
 しかし、書き方をどんなにしっかり教えても、言われたとおりに書けない学生が必ずいる。私もそういう人間の一人なので、あまり厳しくは言わないが、全員のカードを受け取ったあと、黒板の絵を指さして、「あの通りに書けなかった人が何人いる」と、その人数だけ言う。そして、語学の勉強は、正しく覚えるためには、よく聞く態度が必要だと説明する。


3.学生の自己紹介

 まず、カードを切って、カードの順に自己紹介をさせる。
 言語教育院の授業は、ランゲージ(ドリル中心)の授業とサブジェクト(タスク中心)の授業を交互に行うので、どちらの授業で自己紹介を長くするかは、その学期とクラスによって異なる。たいていは、サブジェクトのクラスで自己紹介を長くやる。
 このとき、最低限言わせることは、「名前」、「仕事(学生なら、専攻。梨花女子大学の学生なら、学年も)」、「趣味」、「連絡先の電話番号」。家族などについては、長く自己紹介をするときに言わせる。
 このとき、自己紹介の時の決まり文句も教える。自己紹介を「はじめまして」で始めて、「どうぞよろしくお願いします」で締めくくることを教える。また、電話番号を言うときには、2桁ずつまとめてリズムをつけて読み、ゆっくり、はっきり言わなければならないことを強調する。
 名前と自分の連絡先の電話番号は必ず言わせる。(初級クラスでは、自己紹介の前に、番号の読み方を教える。)これは、数字の読みと聞き取りの訓練とを兼ねている。学生たちは、ほとんどが携帯電話の番号を言う。初めはとても驚いた。
 名前と電話番号は、他の学生たちに書き取らせる。教師もカードに書き取る。聞き取れなかったときに、「すいません、もう一度お願いします」と言うことを教える。なぜか、私が聞き直すことが多い。これはおそらく、日本語のリズムになっていない言い方で学生が番号を言うと、韓国人の学生たちは“分かった”と思うのだろうが、私は混乱するためだと思われる。
 次に当てられた人がその人の電話番号を答える。そして私が、その番号が正しいかどうか、本人に確認する。本人の発音が悪いために、私を含めて全員が間違って書き取っていることがある。
 カードには、今学期のその学生に関する記録を書く。同じ学生のカードを前の学期から繰り越して使うことはない。
 名前を書き取るのは、日本語の勉強にはならないが、学生たちがお互いの名前を覚えられるようにする配慮としてやっている。お互いの名前を知っている場合と知らない場合とでは、クラスの雰囲気がかなり違ってくるからだ。


4.授業の進め方を説明

 言語教育院の授業は、ランゲージとサブジェクトに分かれ、それぞれの講師が交互に担当する。ランゲージでは、文型練習などの活動を中心に勉強し、サブジェクトでは、タスク中心に学習を進めていくことを説明する。
 それから、私のクラスで使う教材を持っているか確認し、持っていない学生には、事務室へ行って買ってくるように指示する。
 中・上級のクラスでは、1冊の教材をすべて勉強するのではなく、10課以上ある中から5課ほどを学生に選ばせる。そのとき、まず私が教材のそれぞれの課のテーマを説明し、そのあと多数決で決める。
 ただし、ランゲージの場合は、教材の課の数が少ないので、すべて勉強する。


5.注意事項を言う(言わないときの方が多い)

 必ず出席するように言う。休めばその分、練習する時間が減ってしまう。言語教育院は1学期の学習時間が40時間と、ひとつのレベルの内容を学習するにはかなり短い。それを休んでしまうと、学習する時間はさらに減ってしまうため、要求される水準にまで引き上げることができない。
 なるべく遅刻をしないように言う。大事なポイントを、授業の始めに言うことが多い。それなのに、遅刻してくると、ポイントを身に付けられないままになってしまう。これでは、いくら教師がその学生を引き上げようとしても無理である。
 宿題をきちんと提出するように言う。特に、半数以上提出しない場合は進級させないことを宣言する学期もある。今学期はそれをしていないが、宿題の提出を厳しくした方が、学生たちの学習が活発になるようだ。
 漢字を書くことも大事だが、正確に読めるようにする方がずっと重要だと強調する。その理由は、私が教える学生たちは、今後日本語でインターネットの検索をしたり、メールをやりとりしたりする可能性が高いから。
 中級からは、「日韓辞典」だけでなく、「国語辞典」も少しずつ用い始めるように強く勧める。それは、自由に言い換えができるようにするためである。「日韓辞典」だけに依存している学生の言い替えは、不正確なことが多く、時には意味不明になることがあるからだ。
 しかし、私がいくら口を酸っぱくして強調しても、実際には「国語辞典」を活用する学生はほとんどいない。


参考資料:初日の授業日誌(2000年度冬学期)

1月2日(火)

15:30〜18:20のJISD401は、まず自己紹介をさせた。そのとき、カードを配って名前と電子メールのアドレスを書いてもらったあと、一人ずつ自己紹介をさせるとき、必ず連絡先の電話番号を言ってもらい、他の学生には、名前と電話番号を必ず書かせた。そして、次にあたった学生に、前の学生の電話番号を言わせた。

学生たちに、今日は日本はまだ休みで、今ごろみんなお酒飲んで酔っぱらっているころだというと、おかしそうに笑っていた。

今日はUnit 1の「英語教育」というのをやった。本文はさっさと済ませるようにと入佐先生に言われていたが、少しもたついて時間がかかった。

授業のあとで、残りの4つの課を、どれを選択したらいいかを話し合った。5つやるんだから、今日一つやって残りは4つなのに、薬が切れてきて熱がぶり返してきたせいか、計算がおかしくなり、残り5つの課を選ばせてしまった。で、残りの4つとは、Unit 6, 7, 9, 10だ。

1月4日(木)

12:10〜15:00のJISD103のサブジェクトは、まず、カードを配って名前と電子メールアドレスを書いてもらったあと、自己紹介をさせた。自己紹介の時、携帯の番号を他の学生たちに書き取らせたが、このクラスの学生たちは、電話番号の言い方と聞き取り方を練習したことがないようだったので、電話番号の読み方を教えた。教科書は1課の最後のアンケートを残して終わった。

1月5日(金)

9:00〜10:50のJISD201サブジェクトは、まず、カードを配って名前と電子メールアドレスを書いてもらったあと、自己紹介をさせた。自己紹介の時、携帯の番号を他の学生たちに書き取らせた。そのあと、教科書本文に入った。日本人と贈り物という文章の本文を読んだあと、その内容を確認する練習をした。

11:10〜13:00のJISD101ランゲージは、まず、カードを配って名前と電子メールアドレスを書いてもらったあと、自己紹介をさせた。自己紹介の時、携帯の番号を他の学生たちに書き取らせた。そのあと、基本会話の挨拶のところを勉強した。練習問題は宿題にした。

1月8日(月)

14:00〜16:00のJISD301は、最初に間違えて、ランゲージの授業をしてしまったので、学生たちに了解を得て、30分延長した。5人出席したが、Aという老婦人と、Bという男子学生は、話す能力がとびきり高く、残りのC、D、Eさんは、付いていけなかったようだ。それもそのはず、先学期は二人は遅刻魔、一人は欠席が多すぎて、練習の絶対量が不足しているのだ。