いい例文を作る秘訣



日本語教育において、例文を作ることは重要な仕事のひとつだ。ここでは、いい例文を作るために、気を使うべき点と、具体的に例文を作るにあたって必要な道具立てについて、簡単に紹介したいと思う。
  1. いい例文を作るには、次の3点に気を使うべきだと思う。

    1. その語の意味が例文自体から体得できる例文
    2. その語を使う状況が分かる例文
    3. 分かりやすい例文

    その具体的な方法は、次のとおり。

    1. その語の意味が例文自体から体得できるようにするためには、

      1. その語が要求する典型的な統語構造を例文に折り込む。

        ×彼は顔を出しません。→彼は最近私たちの集まりに顔を出しません。
        ×足を洗った。→彼は悪事から足を洗った。

      2. 一番結合しやすい語と一緒に結合した形で提示する。

        ×今朝はヨーグルト飲みました。→今朝はコーヒーお茶牛乳, etc.)を飲みました。
        ※上の例文がまずいのは、ポイントになる単語「飲む」の意味を「ヨーグルト」が助けているのではなく、「ヨーグルト」の意味を「飲む」が助けてしまっている点にある。ヨーグルトのように、固体に近くなったり液体に近くなったりする食品は、固さに従って、食べたり飲んだりするので、そういう単語を例文に用いるのは適切ではない。(「ヨーグルト」がポイントなら、「飲む」を使うのはOK。)
      3. 複数の意味を例文で示すには、それぞれの意味に典型的な結合を提示する。

        このカバンはちょっと重いです。/テストのことを考えると気が重いです。
        私は眼鏡外すと何も見えません。/部長は今ちょっと外しています。

      4. 接続詞類は、文を超えて、前後の関係が分かるようにする。

        ×それにしても遅いですね。→彼は遅くなると電話で言ってきたけど、それにしても遅いですね。
        ×さて、次に秋の社員旅行の話に移ります。→この辺で仕事の話は終わります。さて、次に秋の社員旅行の話に移ります。

    2. その語を使う状況が分かるようにするためには、

      1. 主語は最小限の状況設定になるので、主語を省略してしまうのは得策ではない。

        ×ウィスキーを一本飲んでも平気です。→彼女はウィスキーを一本飲んでも平気です。
        ×地味な生活をしています。→彼らは地味な生活をしています。
        ×面白い顔をしています。→その人は面白い顔をしています。
        ※ただし、「夕べ恐い夢を見ました」のような例文は、主語が“私”だということが分かるので、無理に主語を入れる必要はない。

      2. 節の形ではなく、完全な文を作る。(文末にモダリティーのある文。「です/ます」体にするとモダリティーのある文を作りやすくなる。)

        ×話がまとまる。→意見が多すぎて、なかなか話がまとまりません。
        ×庭に咲くモクレンの白い花。→庭にモクレンの白い花が咲いています。

      3. 決まり文句に用いられる語は決まり文句を提示。(この場合は主語を無理に入れる必要はない。)

        そろそろ帰りましょうか。
        ○ちょっと手伝ってください。
        ×ちょっと見てください。→日本語でレポートを書いたんですけど、ちょっと見てください。

    3. 分かりやすい例文を作るためには、

      1. 文を長くし過ぎない。(ただし、短くし過ぎて必要な要素を落としても意味が漠然としてしまう。)
      2. 複文を避ける。(連体修飾節は避けられないが、少なくとも複雑にはしない。)
      3. ポイント以外の部分は可能な限り平易な表現を用いる。
      4. 曖昧文を作らない。

  2. 道具立てとして、自然で典型的な例文を作るためには、次の方法が役に立つ。

    1. 数種類の辞書を参考にする。1種類だとその辞書に影響されるので、必ず数種類を見る必要がある。参考になるのは、外国人のための日本語辞典類のほかに、和英辞典に良質の例文が多い。ただし、上の条件を満たした例文はあまりない。

    2. 用例抽出ソフトなどで、検索する。その方法については、『「超」整理法3』(野口悠紀夫著、中公新書、1999)の第5章が役に立つ。また、マックを使用する場合、パワーコーパス(シェアウェア)が有用。収集する資料としては、ウェブ日記や素人の随筆のようなものが適している。新聞などの記事やコラム、論説文などは、日常的でないので、あまり役に立たない。小説やシナリオも、意外と難点が多い。いずれにしても、プロの文章は平凡でないので、用例としては参考にしにくい。

    3. グーグルなどの検索サイトを使用して、ウェブページで使われている用例を見る。

    以上の3つの方法によって、典型的な用例を見つけ、それをアレンジして、手ごろな長さで適当な難易度の例文を作る。たくさんの用例にふれているうちに、生き生きした例文が思い浮かんで来やすくなる。