どうしたらいい発音になるか


1. 発音練習は自律学習で

発音の指導においては、発音の身に付け方も教えるべきであり、また、発音練習は自律学習に求めるべきである。その理由は次の通りである。

第一に、発音の身に付け方を教える必要があるのは、教師の不十分な説明を学習者が自分の観察で補えるようにするためである。発音の説明は不十分になりやすい。そして、不十分な説明は正しくない発音を生成させることになる1)。しかし、学習者が発音の身に付け方を知っているなら、説明が不十分でも、より良い発音を身に付けることができるはずである。

あるいは、発音の説明が間違っていることもあるだろう。そのときでも、発音の身に付け方さえ身に付けていれば、正しい発音を習得することができる。

第二に、発音練習を自律学習に求めるべき理由は、発音の習得は多くの学習者にとって、長い時間を要するものだからである。1度聞いただけですべての音をたちどころに身に付けられる学習者はごくまれである。習得するのに短くて数日、長ければ数年を要する発音もある。

このように、発音の習得には長い時間がかかるので、授業時間に発音のすべてを身に付けさせるわけにはいかない。したがって、学習者が個人的に発音練習できる方法を教え、授業での指導の不足を補う必要がある。

そのためには、(1)発音練習を積極的に獎励し、(2)基本的な音声学の知識を教え、(3)発音練習の方法を教える、という3点が重要だと思われる。

2. 発音練習を積極的に獎励する

発音練習を自律学習で行うように仕向けるには、積極的な動機付けが必要である。発音は、語彙や文法の学習とは違って、学習者にあまり人気がない。その理由には、主に次の3点が考えられる。

まず第一に、正しい発音の重要さを深刻に捉えている学習者が少ないということである。たしかに、ある学習者には、正しい発音は必要ないかもしれない。しかし、ある学習者は、正確な発音を必要としているかもしれない。それにもかかわらず、発音練習を意識的に行うことはあまりないようだ。

第二に、韓国語は世界のすべての音声を表すことができるという考えも、発音の学習を妨げている。この考えがまずいのは、発音練習をしようという意欲を根こそぎ削いでしまうからである。

第三に、発音の習得を初めからあきらめている場合も、発音指導を難しくする。多くの学習者にとって、発音の習得には時間がかかる。すぐにできない発音はなかなかできるようにならないために、最初から駄目だとあきらめてしまいやすい。

このような現状を踏まえて、次のようなことを学習者に助言する必要があると思う。(1)正しい発音の習得は一般に必要であること、(2)韓国語の発音では外国語の発音は間に合わせられないこと、(3)正しい発音の習得は可能だということ。このような助言は、プリントにして学生に読ませた方がいいだろう。口頭で説明しただけでは、雑談と考えて聞き流してしまうことが多いからである。そして、次に触れるように、発音の評価も行うべきである。

2-1. 評価を行う

学習を獎励するためには、評価を行うのがもっとも効果的である。発音に関しても、評価を行い、その結果を成績に反映させることで、発音練習の動機付けは強化されるはずである。

評価には実力を問うものと、達成度を問うものとがあるが、発音の評価にも、実力を問うものと、達成度を問うものが考えられる。発音の実力を評価する試験は、学期の終りに一度だけ行えばいいだろう。しかし、発音の達成度を評価する試験は、学期の始めと終わりに行う必要がある。それは、クラス分けテストで、発音の評価をしないことが普通だからである。

発音練習を獎励するには、達成度の評価を行う必要がある。ただしこの試験で測れる達成度は相対的である。なぜなら、発音項目は文法項目や語彙と違って、その学期に身に付けるべき発音というものはなく、日本語全体の発音項目からどれかが習得されれば、その発音の習得が“達成された”と言えるからだ。そのためには、学期の始めと終わりに、同じテキストを読ませるべきだろう。学期初めと学期終了時とで、改善された項目が多ければ、それだけ多くの発音を習得できたことになる。全体的なトーンや間をはじめとして、イントネーション、アクセント、個々の発音に至るまで、チェック項目を設けて評価する。

発音の評価を実際に行ったことはまだないので、発音の達成度テストを実施した場合、どの点に困難があるのかは分からない。しかし、予測される問題点には、次のようなものがある。それは、語彙・文法のテストと違って、発音に関しては、同じクラスの学習者でもムラが激しいということだ。発音の才能があって、最初からよくできる学習者の場合、1学期の間に新たに習得している発音は、比較的少ないかもしれない。そうすると、その学習者の達成度は相対的に低くなってしまう。また一方で、初めは発音の非常に悪かった学習者が、後に努力して、かなりの項目の発音を改善したとする。結果としては、もとから発音のよい学習者の最初の水準にも満たなかったとする。しかし、この学習者の達成度は、相対的に高いことになる。

このような問題はあっても、発音の達成度テストは必要だ。なぜなら、努力すれば発音はよくなるということを学習者たちに示すことができるからである。実力だけを評価しても、もとから耳のいい学習者が得をするだけで、多くの学習者に努力すればできるようになるという希望を与えることはできないだろう。

3. 基本的な音声学の知識を教える

言語習得のセンスを決める態度に、観察と模倣と記憶の3つがある。特に、観察は残りの二つに先行する重要な能力だが、ただ観察しなさいとだけ助言されても、どう観察すればいいのか、見当がつかず困るだろう。観察にも方向性を与える必要がある。

その方向性の提示として、基本的な音声学的な説明も必要である2)。音声にはどんな面があるのか、言語の音にはどんな種類があるのか、口の中の動きはどう動くのかなど、そのあらましを知っていれば、比較的効率よく日本語の発音を身に付けることができるはずである。ここではその点については立ち入らず、以下5つの点に触れておくことにする。

3-1. 韓国語では区別しないで日本語で区別する音

個々の音において、韓国語では区別しないが日本語で区別するというものは、気をつけるべきである。そういう音は、韓国語と日本語との関係ではかなり多い。

このような個々の発音の学習方法は、すでにかなり発達している。ミニマルペアを使用して、異なる音の識別を助ける方法が、一般的に用いられており、効果をあげている3)。これは、発音の違いを初めて認識させるための刺激剤として、有効である。ただし、学習者が家庭で自習するよりは、教室で指導するのに適している。

3-2. モーラ

モーラは、おそらく日本語の発音の“生命”と言っても過言ではないだろう。これが身についていなければ、日本語の正しい発音は身に付けられない。しかし、拍を等間隔に刻む日本語のモーラ概念が韓国語にはないため4)、学習者はモーラの習得に苦勞するようだ。特にモーラが問題になる音は、母音の長短と、促音「っ」と、撥音「ん」の3つだろう。

母音の長短は、もちろん韓国語話者にも認識はできる。しかし、やっかいなのは、これが韓国語では意味の違いを生じさせる要素ではないため、印象が薄く、記憶に残りにくいという点である。韓国語では語頭に長い音が來る場合があるが、それは現在では、意味の違いを表す音素として機能していない。また、特に語中の音節は短く発音するのが普通なので、日本語の語中の長音は、学習者にとって、かなり意識的に学習することが要求される。

促音「っ」の指導でもやはり、モーラを強調する必要がある。この音は、後続する子音を1拍のモーラに伸ばして発音するという特徴がある5)。私は授業では便宜上“쉼표(休符)”だと説明している。それは、モーラの説明に音符を利用しているからである。

撥音「ん」も、モーラに影響する重要な音なので、しっかり説明すべきだろう。この音は、(1)常に鼻音であり、(2)常に1拍の長さを持ち、(3)後続する音に同化する、という特徴がある。特にこの3番目の特徴が徹底していることは、あまり知られていない。たとえば、「一万円」の発音が実際には“イチマイエン”に近いということは、韓国の日本語学習者の間では、ほとんど知られていない6)

3-3. アクセント

標準アクセントの習得は無視すべきではない。正確な標準アクセントが駆使できれば、その学習者の日本語に対する評価が上がる。だから、アクセントの存在は教えるべきである。

何よりもまず、日本語には高低アクセントが存在するという事実を学生たちに紹介する必要がある。多くの学生は、その事実すら知らされていない。

また、アクセントが文法的な存在であること、つまり、複合語になるときや用言が活用するときに変化するという事実も教えるべきである7)。そうしないと、習った単語のアクセントが文脈の中で違ったアクセントで発音される場合、学習者はその理由が納得できないだろう。

アクセントを認識させる訓練は、教室で行うべきだが、それを学習者が自分のものとして身に付けるためには、自律学習に多くの時間を割く必要がある。

3-4. 無声化

無声化という事実も、日本語学習者は知っておくべきである。この現象は韓国語でも起るが、規則的に生じるものではないので、日本語の標準音を身に付けるときには、意識的に学習する必要がある。

無声化についての間違った説明は、極力避けるべきである。たとえば、“学生”という単語の発音で、「く」を「ㄱ받침」で発音すると教える教師がいるが、それは韓国語を母語とする人にとってそう聞こえるということで、「ㄱ받침」は「く」と同じではない。これを「ㄱ받침」で発音すると、モーラが狂ってしまうのである(ただし、速く話されたときは、問題ないようだ)。ひどい説明になると“がっせい”と発音せよというのもある。このような説明で学んだ学習者の発音を直すのは、骨が折れる。多少迂遠に感じられても、無声化の事実は正しく説明した方がいい。

3-5. 文全体のトーンの流れ

文全体のトーンの流れは、教室では教えきれない。それは、モーラ、アクセント、プロミネンス、そしてイントネーションが混合して、一つの文を作るときに実現する、実際の文の調子である。これこそが、実際の口頭による意味伝達に大きな役割を果たしていると思われる8)

ところが、これは一般にもっとも看過されやすい部分である。それは、教室で教えきれないためだろう。この部分が特に、自律学習に求められる。そしてこれは、規則を精密に教えるよりも、実際の音声資料に当たって練習するのが効果的である。だからこそ、発音練習を自律学習に求めるのである。

4. 発音練習の方法を教える

発音は、音声教材を聞いただけでは上手にならない。何度聞いたからといって、聞くだけでいい発音ができるようにはならない。これは、日本人の標準語習得でも同じことがいえる。私たちは幼いころからテレビなどを通して膨大な量の標準語を聞いているはずである。しかし、それでも標準語を話すときに自分の方言の発音が残ることがある。これは、発音を意識的に練習しなければ身に付かないことを示している。

だから、日本語学習者は、正確な日本語の発音を聞くだけでなく、その発音ができるように練習すべきである。

4-1. 練習に用いる機材

発音の練習には、音声教材を利用する。高価な機材は必要なく、なるべく身近な機材を利用すべきである。機材を選ぶ原則は、反復聴取がしやすいことだ。その主要な道具は、コンピュータとテープレコーダーだろう。

コンピュータは、CDの再生に用いる。CDの再生は、CDプレーヤーよりコンピュータの方が便利だ。なぜなら、メディアプレーヤーなどでCDを再生すれば、反復再生が可能だからである。

テープレコーダーは、カウンターが付いているものも使えるが、ICリピータの付いているものが理想的である。安価とはいえないが、現在10万ウォンくらいあれば手に入る。これは、一つのセンテンスの徹底的な反復練習に最も適した道具である。

その他、現在は様々な媒体がある。反復聴取がしやすい道具が用いられるという原則さえ満たしていれば、どんな媒体でも発音練習に使えるだろう。

4-2. 練習の方法

さて、発音の練習は、徹底した観察と模倣を中心とする。“だいたい同じ”というのではなく、そっくりそのままに、“声音まで全く同じ”に言えることを、目標とする。このくらいの目標を立てないと、文全体のトーンが正確に身に付けられないからである。

セルゲイ・ブラギンスキー氏は、その徹底した発音練習で日本語を身に付けたが、自分の日本語学習方法について、次のように回想している。

 発音の訓練は次のようにしておこなった。
 まずは非常にやさしいテキスト(三年生になっていたが一年生の教科書を使ったことなど)をテープで聞きながら何度も読む。アナウンサーの声の入ったテープを間をあけながら別のテープに録音しなおす。そしてその間に自分の声を吹き込んでみる。一つ一つのフレーズをさらに細かく区切ってやるのだが、吹き込んだあとはアナウンサーの声と自分の声を細かく聞き比べて、何度もやり直して同一の発音になることを目指す。
 最初は十フレーズぐらいの簡単なテキストに毎日三〜四時間ずつ三日も四日もかけたことがあった。リンガフォン室にたまたま入ってくる同級生からは、「また一年生になるつもりか」と皮肉られるほどだった9)

この方法では、自分の声を録音したということだが、自分の声を録音できる機材まで持ち合わせている学習者は、あまりいないだろう。だから、ついて言いながら、最小限、録音されている声と、リズムや音程がずれないで(属にいう“ハモらないで”)、一緒に言えるようにする練習を行う。

この練習は、ブラギンスキー氏自身も「最初は十フレーズぐらいの簡単なテキストに毎日三〜四時間ずつ三日も四日もかけたことがあった」と回想しているように、無数の反復を要求するものだ。繰り返せば必ず発音は接近するが、10回や20回の反復ではあまり効果はあらわれない。だから、何度かやってみてその困難さにショックを受け、自分は発音は駄目だと諦める学生は多いだろう。だから、初めはうまくできなくても諦めないように、励ます必要がある。

參考文献:

千野栄一(1987)『外国語上達法』岩波新書。
土岐哲・村田水恵(1989)『外国人のための日本語 例文・問題シリーズ12 発音・聴解』荒竹出版。
ブラギンスキー、セルゲイ(1995)「語学の勉強は発音の訓練から」現代新書編集部編『外国語をどう学んだか』講談社現代新書。
吉川武時(1997)「誤用分析 T」明治書院企画編集部編『日本語学叢書 日本語誤用分析』明治書院。
김조웅・尾崎達治(1999)『동경발음 일주일에 끝내기』시사일본어사。
오자키다쓰지(1998/1999)『회화식일본어 입문/초급』다락원。
이현복(1989)『한국어의 표준발음』교육과학사。
鄭鎮宇編著/水谷修・水谷信子原著(1985)『새로운 교수법에 의한 日本語会話』도서출판소명。

2003.12.19 発表


注:

1) 吉川武時(1997)によると、誤用の原因の一つに「不十分な説明」(17〜22頁)がある。

2) 千野栄一(1987)、157頁。

3) ミニマルペアを中心に構成されている発音教材として、김조웅・尾崎達治(1999)がある。

4) ただし、이현복(1989)では、韓国語の長母音を母音字2つで表示している。

5) ただし、「あっ!」のように、休止が後続する場合、声門閉塞を表す。

6) 母音“エ”の前の「ん」は、たいていは“イ”の口構えをした鼻音となる。

7) アクセントの表示をしている会話教材は韓国にもある。鄭鎮宇(1985)と오자키(1998/1999)では、文法の習得とともにアクセントを習得させることを試みている。

8) 土岐哲・村田水恵(1989)、vii頁。

9) ブラギンスキー(1995)、230〜231頁。