暗記が苦手だという人には、訳付きの短い例文を覚えていくとき、次のような方法をお勧めする。
大体これで、一応暗記できる。もしできないときは、3.と4.をもう1〜2度繰り返す。それでもうまくいかないときは、もう一度丹念に日本語と英語とを見比べ、どのように対応しているのかを調べる。私たちは案外日本語を見ているようでよく見ていないのだ。日本語の研究者になったつもりで、日本語をよく調べ、それと英語とを対比させて注意深く調べる必要がある。構造上の問題だけでなく、時制なども、日本語の「〜ている」形が英語では“Have been 〜”という形と対応していることがある。「〜(する)には」などの対応も面白い。そういう点に目を付けてもう一度じっくり読み込めば、5.、6.に移ることができるだろう。
文が少し長かったり複雑だったりして覚えにくいときは、7.、8.をもう少し繰り返す。しかし、あまり神経質にならない方がいい。適当に切り上げて次の例文に移らないと、途中でいやになってしまう。
この方法を、とりあえず「視訳法」と呼んでおこう。日本語を、見ながら、英語に訳すからだ。この方法では、見るということを大切にしている。
3度英語を読んだり言ったりするたびに日本語を1度読むのは、その“意味”に立ち返るためだ。意味の把握が大切だ。日本語を見ながら英語を言っていても、ぼんやりして意味をあまり考えなくなる可能性がある。そこで、日本語を声に出して言うことによって、意味を覚醒させる。
こうやって覚えれば、暗記はそれほど難しくない。あとは時間をおいて記憶を確認し、後に書き出せばいいのだ。
ちなみに、一日に何例覚えるのがいいか。種田輝豊氏は、高校生の頃『英作文の修業』という本の暗唱用例文を覚えるのに、1日25例ずつ覚えたということだ。私たちもその程度にした方がいいと思う。私たちも、1日に20〜30例ぐらいを覚えるのが適当ではないかと思う。
また、全部で何例の例文を覚えたらいいのかということが問題になる。これについても、種田輝豊氏は、500の例文を暗記すれば、自分が言いたいことは言えるようになると言っている。その500の例文は、自分が勉強している学習書から取った方がいいという。
もちろん、暗記する量は、無理に500例にとどめる必要はない。それ以上覚えてもいいし、いくつ覚えてもいいわけだ。
ただし、この学習は、一通り終われば完全に終わったのではなく、その後何度か復習をして記憶を完全なものにする必要がある。こればかりはいっぺんにできないことなので、日にちをおいて繰り返す必要がある。このように反復学習すると、これらの例文が壊れたレコードのように頭の中に響きつづけるそうだ。