『おじさん、語学する』(塩田勉著、集英社新書)


日本は、数多の外国語学習法書籍が出回っている国だ。韓国では“外国語学習”という名を冠した本がなかなか見当たらないのに反して、この盛況ぶりには目を見張るものがある。しかしその出来栄は、かなりまちまちだ。その中で、『おじさん、語学する』は出色の作品だ。

この本のいちばん大きな特色は、言語の習得を全般的な側面から捉えているという点だ。特に、学習をスタートする時点、初級段階での学習、初級を終わってからの発展段階を、それぞれ別々に説明している。実際、初級での学習と中級以降の学習とは、その性質が違う。

この本は、林家常雄というラーメン会社に勤める年輩サラリーマンが、フランスに住む孫に会うためにフランス語を勉強するという筋書きからなっている。その折々の感覚を、私たちも林家常雄と一緒に疑似体験できるという仕組みだ。そして、各章の後ろに、学習原理が出て来る。

私は昔、韓国語を勉強した時、岩波新書の『外国語上達法』を何度も読んで、韓国語学習の支えにした(この本が出たとき韓国語の初級は終わっていたが、まだ使い物にならなかった)。『外国語上達法』は、他の外国語学習法のアドバイスにはない重要な点を指摘していた。おかげで私は韓国語をものにすることができた。

『おじさん、語学する』は、それを上回る量の重要な概念を提示している。それらの概念は、外国語教授法や第2言語教育を勉強した人には常識になっているものではあるが、実際にそれを個人の自律学習に当てはめるのは、やさしいことではない。この本は、それをやってのけた。この本を熟読し、外国語学習中にも何度か繰り返し読んで自分の学習を反省・検討するならば、かなり無駄なく外国語をものにできるに違いない。

また、従来の外国語学習法は、それぞれいい方法を提示してくれてはいるのだが、学習環境と学習法との関係がはっきりしないために、著者の提示する方法が適用しにくいという難点があった。しかし、この『おじさん、語学する』は、そういう難点を克服すべく、主人公の学習環境を具体的に描写し、さらに方法というよりは、習得原理を提示している。そのため、日常生活の中での外国語学習の位置がよく分る。

とくに、外国語で上手に話せるようになりたいという人には、この本はお勧めだ。

ただしこの本は、古典語を独学で学習する人には、ちょっと不向きかもしれない。独学で古典語を学習するという劣悪な環境を克服できるのは、いまだに情熱と根気と集中力と精神的重労働のようだ。