1581   「お」と「を」の使い分け
2004/01/11 15:24:35  ijustat   (参照数 10)
これは 1579 [やっぱり難しい日本語] への返信です

pdca様、こんにちは。ijustatです。

>>そういうのを学校で習ったことがない(81`生)というのもあるのですが…
>>私、大阪人なんで…本当にその差が、わからないんですよ。
>>なぜなら、私の持つ日本語の音韻体系(大阪弁…ちょっとずれてるけど(笑))には、
>>軟口蓋音の「が」(ごりら!)と、鼻濁音の「が」(りんご!)
>>この二つの区別がないんですよ…もともと。
>>というより、軟口蓋音の「が」しか使わない。
>>この発音と弁別が苦もなく出来るのは、関東の人では…(間違ってたらごめんなさい、ちょっとうろ覚えです)
>
>私は福井の出身なので、文化的には関西文化圏で、テレビの「お笑い花月劇場」を見て育ったのですが.. 
>年齢ばかりではないようです。同い年の関西出身の人に聞いたらやはり知らないと言っていらっしゃいました。

面白いと思ったので、三省堂の『明解日本語アクセント辞典』を見てみました。巻末の資料によると、東北地方から中部東海地方、関西地方まで、ガ行鼻音になる地域が広がっていて、その間を横切るように、埼玉・群馬・新潟の3県が“硬い”ガ行音の地域になっていて、東京はその先端で、両者が混在する地域になっています。鼻音の地域は兵庫まで続いていて、その先の岡山から硬いガ行になるのですが、京都と大阪は、東京と同じく混在地域ということになっています。

ですから、福井出身のpdcaさんがガ行を鼻音で発音するのは、その地域的な特性によるものだということが分かります。私は埼玉の川越出身ですが、中学生のころ学校にNHKのアナウンサーが発音講座に来たとき、代表でテキストを読まされた私は、ガ行が鼻音になっていないことを注意されました。現在は、ガ行を鼻音で発音しなさいと言われたら、きちんと発音するけれども、プライベートな会話では、鼻音になったりならなかったりのようです。

>東京出身の妻は「お」と「を」の音の使い分けをするように学校で指導され今でも使い分けています。私は意識していませんが。

これは驚きました。四つ仮名(じ・ぢ、ず・づ)を区別する地域は四国の一角にあると聞いたことがあるけれど、「お」と「を」の区別は平安末期に消滅したということしか知らされていないからです。本で読んだのですが、平安時代までは「お」は“オ”、「を」は“ウォ”の音だったそうですけれど、確か鎌倉時代ごろからどちらも“ウォ”と発音されるようになり、それが長い間続いた後、江戸時代ごろにはそれが“オ”の音に変化したということです。ですから、中世にはかなり表記が混乱していたそうです。

それを、江戸時代に契沖という学者が平安時代の「お」と「を」を厳密に区別する仮名遣いを復活させ、それが戦前まで正式な表記として採用されていたのが、戦後の国語改革ですべて発音どおりに「お」に統一され、対格の助詞「を」だけがそのままの表記を残したと学んできました。印刷された古文のテキストを見ると、契沖先生のおかげで表記が整然と統一されていますが、写本を見ると、表記がかなり自由です。しかし、それは当時はでたらめではなく、一般的な表記だったわけです。「お」と「を」などは特に目立つもので、整然とした歴史的仮名遣いに慣れてしまうと抵抗を感じるでしょうが、それは助詞以外のすべてを現在「お」で統一しているのと同じ理由によるわけです。

それを、発音上の区別が消滅して千年もたった「お」と「を」を区別して発音するとなると、当然、現代仮名遣いで「お」で表記されている文字も、単語によっては“オ”になったり“ウォ”になったりするというということを意味します。歴史的仮名遣いの語中のハ行は実際にはワ行ですから、それも考慮に入れれば、「小川」は“オガワ”、「緒方」は“ウォガタ”、「顔」は“カウォ”、「会おう」は“アウォー”になります。もちろん助詞の「を」も“ウォ”で。語中の“オ”は複合語以外では存在しません。そうすると、「を」が“ウォ”の音を表わすわけですから、「ウォ」は「ヲ」と表記すれば十分なわけで、外来語の表記も、「スターウォーズ」ではなく「スターヲーズ」とすべきことになります。あるいは“オ”と“ウォ”を書き分けない(?)平仮名に合わせて「スターオーズ」と書くとか……。

これが「お」と「を」を区別するということです。しかし実際にはそれらは区別されないところを見ると、「お」と「を」の発音を区別させたというのは人為的な指導だったことが分かります。ですから、奥様を教えられた国語の先生は、何かを勘違いして、日本語に存在しない発音を教えられたのではないかと思います。私も昔、助詞の「を」を“ウォ”と発音する人に会ったことがあります。しかし、その人も普通に話すときには“オ”と発音していました。

国語の先生が間違った発音を教えてしまうことはよくあるようで、私も中学生のとき「夾雑物」を“キョーザツブツ”と発音するのはだらしないことで、“キョー・ザツブツ”と発音しなければならないと教わり、それを守っていました。しかし、あとでアクセント辞典を見てみると、そのだらしない発音が標準語の発音になっていて、先生から教わった発音は存在しませんでした。

ところで、歴史的仮名遣いの「か・が」と「くわ・ぐわ」の区別は、地域によっては現在もしっかり残っていて、以前ドライブで秋田県へ行ったとき、「開会式」を“カイクァイシキ”と発音しているのを聞きました。授業でそういう地域があることは習っていたけれど、実際に聞いてみると驚きを隠せません。