外国語の学習に必要なもの


外国語の学習に必要なお膳立てについて考えてみる必要があると思う。これは、学習を容易にする重要な道具たちだ。以下の5つは、外国語学習にぜひとも必要な道具だ。そして、それらの道具の使い方について知る必要もある。

  1. 学習書
  2. 音声教材
  3. 辞書
  4. 単語帳
  5. 練習用のノート
独学する場合を中心に考えているが、授業を受ける場合も、大方は一人で勉強する時間に当てられるわけだから、この方法はそのまま役に立つだろう。

学習書

学習書は、その言語の学習のかなめだ。初級文法が出そろっているものをメインにするのがいい。ただし、自分がすでに知っている言語と近い関係にある言語を学習する場合は、文法の提示をあまり気にする必要はないだろう。なぜなら、類推が利いて理解できる場合が多いからだ。

初級文法が出そろっているからといって、あまり大部なのはよくない。せいぜい提示語彙は千語から千五百語程度が適当だと思う。それ以上のものは、読み切れないうちに喘いでしまって挫折する可能性が高くなるので、忍耐力と十分な時間がある人以外は、そのような教材は求めない方が得策だ。そういう教材しかない場合は、工夫して部分的に端折る必要があるだろう。

なるべく自然な対話文が載っている教材を選ぶべきだ。短文の例文しかない教材よりは、長文または会話文になっているものの方が、その言語の話の流れが分かるので、実際に使用するときに役に立つ。

そして、著者はその言語を母語とする人で、できれば媒介語を完璧に駆使できる著者が好ましい。また、初級文法が出そろっている教材にコミュニケーションに必要な表現が手薄な場合は、もっとやさしい会話中心の教材も併用するといいと思う。

学習書は、線を引いたり書き込んだり、色を付けたりして、自分があとで読み返すときに使いやすくする。日本語の外国語教材は視覚的効果が優れている場合が多いが、それでも、本にはどんどん手を加えて、自分なりの学習環境を学習書の中に作り出していくべきだ。

教師から習う場合は、教材は教師が指定したものを使えばいい。そして、教師の説明などは、教材を拡大・延長させる効果を持つ。そのときの授業の雰囲気と、学生たちの必要とによって、よりよいものに変化するだろう。

音声教材

学習書には、CDやカセットテープなどの音声教材が付いているべきだ。それがなければ正しい発音を学ぶことはできない。音声教材の重要性は誰もが認識していると思うが、正しい音声を学ばなければ、自分の発音が相手に伝わらないばかりか、相手の話すことを聞き取ることもできない。私たちの英語学習でこのことは十分に実証されていると思う。正しい発音で学んでいれば、外国語を聞き取ることは大したことでないはずだ。しかし、現状はそうではないために、私は簡単な英語を聞き取るのも苦手だし、巷では英語が聞き取れることが超能力か何かのように騒ぎ立てられている。これが、日本の英語教育の現状だ。教科書自体に問題があるのではなく、教授法に問題があるために、このような面白い結果になるのだ。だから、音声教材とどれくらい付き合うかが、外国語の学習結果の方向性を左右する。

カセットテープは頭出しが容易ではないので、できればMDなどに録音し直した方がいいだろう。ただし、ICリピート機能の付いたテープレコーダーは、MDでは容易にできない短区間の反復聴取を専門にしている点が強みだ。外国語を模範発音と全く同じイントネーションとリズムで話すのはとても難しいことだが、ICリピートのように短区間を反復できれば、その練習が比較的容易になる。外国語の発音は、個々の発音もさることながら、一つの文全体のイントネーションやリズムが何よりも重要だ。全体的なメッセージを伝えるのに最も重要な要素となるからだ。それをいちばん速やかに習得できる道具はICリピートだ。

ただし、聞き取りの訓練には、CDやMDなどのファイルの方がいい。なぜなら、これらはファイルを細切れにすると不便になるために、たいていはある程度のまとまりを一つのファイルにするが、それが、ある程度のまとまり全体を聞き取る練習をするのにうってつけだからだ。今後は、CDを任意の区間でRAMに記憶させて反復聴取できるソフトウェアが作られたら、ICリピートよりもさらに使い勝手がよくなるだろう。(これを読んでそういうソフトを開発された方は、私にも一部ください。^^)

母語話者の教師に習っている場合は、音声教材の必要度は絶対的ではないかもしれない。しかし、その場合は教師の発音を徹底的に真似なければならない。実際にはそれは難しいので、発音練習は自宅で音声教材を用いて行った方がいい。

辞書

辞書は初期の段階では必要ない場合もあるが、教材のグロッサリがしっかりしていない場合があるので、やはり辞書は必要だ。また、教材以外のところでその言語が必要になる場合もあるので、やはり辞書は必要だ。インターネットの外国語学習関係の掲示板などで、基本的な単語の意味について質問しているものがよく見られる。単語一つを知るのに、そんな誰が答えてくれるかも分からないような質問を試みるくらいなら、辞書を買っておいて、知りたかったらすぐに辞書を引いた方が、知識は速やかに自分のものになる。

辞書は例文の豊富なものがいい。例文まで暗記する必要はないかもしれないが、語釈でも意味が釈然としない場合は、例文が意味の理解に大いに助けになる。ただし、大辞典になると、かえって使いにくくなるし、古語や方言まで入って来て混乱するので、辞書はあまり大きくない方がいい。

辞書によっては、日本語で説明されているものがなかったり、いいものがなかったりする場合がある。親切な学習書には、今後の学習のためにと題して、辞書や中級以上の学習書の紹介をしているものもある。そこに外国の辞書を紹介している場合があるので、それを参考にして手に入れる方法もある。

初めは“目標言語−媒介語”(多くは“外国語−日本語”)辞典だけで十分だという意見もあるが、“媒介語−目標言語”辞典も持っていた方が精神衛生上いいと思う。私たちの好奇心は、教材の学習段階に留まらない場合があるからだ。これはその外国語でどういうんだろうと思うのは、よくあることだ。

中学生の頃、英語の時間に bake cakes という言い回しを習った。それで、英語で喋ってみたい同級生は、“魚を焼く”をこれで言えるようになったと喜びながら、“Yesterday, I baked fish and ate it.”(笑)と言ってみたが、英語の先生は、そんな言い方はしないと言ったきり、どう言うのか教えてくれなかった。君たちにはそういう表現はまだ難しいと諭すだけだった。日本ではケーキを焼くよりも、魚を焼く方がずっと身近なのだから、魚を焼くという表現こそ教えてくれるべきだった。先生が知らないなら和英辞典だが、なぜ、和英辞典を引いてみなさいとその先生が勧めてくれなかったのか不思議だ。それで私は、bake がだめなら“I burnt fish and ate it.”というのかもしれないと思っていた(笑)。私が和英辞典を買ったのは、高校に入ってからだったと思う。

単語帳

単語帳は、作らないよりは作った方がいい。単語帳をわざわざ作る必要があるわけは、数多く出てくる単語(または連語、短い決まり文句など)を覚えているかどうか、忘れていないかどうか、随時クイズできるからだ。

ノートは単語帳専用のものではなく、一般のノートを使う。薄手で罫線は狭くない方がいい。もし1ページが25行ほどで60ページのノートなら、1500語書き込むことができる。このノートの3分の1または1冊全部の単語を身につければ、その外国語の初期の学習はいちおう完成したと見ることができる。

ページを縦に二つ折りして、左側に目標言語、右側に媒介語の訳を書く(逆でもいい)。訳はいちばん代表的だと思われるものを一つだけ書く。なぜなら、訳というのは意味の想起のきっかけに過ぎないからだ。訳がいくつもあると、その単語に集中できなくてかえって邪魔だ。意味というのは、学習書の本文によって身につけるべきものだ。また、用例なども書かない。用例は、学習書で覚えるべきものだからだ。

使い方は、まず、綴りを見てスラスラ言えるか、意味が想起できるかをチェックする。この場合、特に媒介語に訳してみる必要はない。意味が想起できればいいのだから、それが表すものの形や味、匂い、手触り、その他のイメージが想起できれば十分だ。次に、媒介語を見ながら目標言語で言ってみる。思いだせなかったら見る。それを1〜2度行って、まだ目標言語が出てこない単語は、媒介語の方に印を付け、その単語を特に注意するようにする。注意する方法としては、練習用のノートに何度も声に出して言いながら書いてみることと、学習書の本文を読みながら、その単語が出て来たときに格別の注意をすることとの二つが効果的だ。

単語には、簡単に覚えられるものと、なかなか記憶に残らないものがある。単語帳が役に立つのは、この、記憶に残りにくい単語を他の単語と区別するためだ。記憶に残りにくい要因はいろいろあるだろうが、いずれも共通しているのは、印象が薄いからだ。記憶に残りにくい単語は、まず綴りと発音を何度も書いてしっかりと記憶させる。そして、印象深い用例を探すか、そういう用例に出会うまで待つ。

単語学習で注意すべき点は、目標言語と媒介語との1対1の等式として覚えてはいけないということだ。しかし、単語帳はその性質上、目標言語と媒介語とを対応させる形式を採らざるを得ない。だから、単語や連語などを書き込むときに、それが学習書のどこにある単語なのかを自分なりの方法で思い出せるようにする必要がある。多くの場合は、その単語が出て来ているページ番号を書き込むだけで事足りるだろう。あくまでも、文脈から切り離して単語を覚えてはならない。そして、単語帳で単語に慣れてから、学習書の本文に戻って本文の中でその単語に慣らしていく。それによって、単語を身に付けることができる。

練習用のノート

練習用のノートは、裏紙などでもかまわないのだが、1冊のノートになっていた方が、自分の成長ぶりが見えて、学習動機を支えてくれるだろう。ノートに書きながら練習する場合、日付を書き込んでおくと、自分の外国語学習史となる。自分が日本語教師だったり他の言語を教える教師だったりする場合は、このノートは貴重な資料になるだろう。

このノートでは、文法事項や単語を覚えるために何度も書いたり、練習問題などをしたりする。その外国語で落書きをしたり日記めいたことを書いたりするのにも、このノートを使う。部分的に何かを整理することはあっても、このノートは整理することが目的ではない。整理したいことは、教材に書き込んだ方がいい。

単語帳用のノートと違って、練習用のノートは厚手の方がいい。自分の学習経緯が長く一覧できるからだ。また、罫線はない方がいいと思う。自由に色々な書き方ができるからだ。